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ナイトビジョンとサーマルイメージャーの像を脳内で合成させる、脳内フュージョンについて

記事作成日:2023年10月6日

ナイトビジョンにサーマルイメージャーの映像を投影する事をフュージョンシステムと呼んだりします。

有名な製品として、『AN/PAS-29 COTI』という製品があり、こちらはナイトビジョンの対物レンズに取り付け、サーマルイメージャーの映像をナイトビジョンの映像に合体させる事が出来る製品となっています。
これに似た製品がinfiRayから『Jerry-C5 COTI』という名前で販売されています。
ちなみに、AN/PAS-29もJerry-C5も『COTI』という名称が付いていますが、これはClip On Thermal Imagerの略です。

他にも予めナイトビジョンにサーマルイメージャーの機能を取り込んだ製品だったりサーマルイメージャーとドットサイトを組み合わせた製品、サーマルイメージャーとスコープを組み合わせた製品など、色々な種類が存在するのですが、2つの光学サイトを組み合わせて合わさった像を見れるようにする事を「フュージョン」と呼び、メーカーによっては「フュージョンシステム」と呼称している事もあります。
尚、似たような物として「タンデム」というのもありますが、ナイトビジョンにサーマルイメージャーを取り付けるのはフュージョンと呼ぶのが一般的のような印象があります。

TNVCのカテゴリーにFusion Systemというのがある

という訳で、今回は昔からナイトビジョン・サーマルイメージャー界隈で話題になる「脳内フュージョン」についての解説と検証を行う事にします。

脳内フュージョンというのは、ナイトビジョンとサーマルイメージャーの像を頭の中で合成させ、COTIみたいな見え方を脳内で再現するという事です。
誰が言い出したのか分からないですが、前から界隈で度々耳にする単語です。

今回は単眼ナイトビジョンであるAN/PVS-14A2と単眼サーマルイメージャーであるinfiRay RH25 Pfalcon640+を使って脳内フュージョンについて説明していきます。

RH25 Pfalcon640+(左)とPVS-14A2(右)

尚、脳内フュージョンに関してはだいぶ前に借り物でやった事があり、自分の中では結論が出ているのですが、検証記事にした事は無かったです。
サーマルイメージャーを購入した記念に記事にしようと思った次第です。

脳内フュージョンのやり方について

脳内フュージョンのやり方(の説明)は至ってシンプルです。
基本的には効き目の方にナイトビジョン、反対側の目でサーマルイメージャーを覗きます。
脳内フュージョンにおけるサーマルイメージャーはサブなので、効き目じゃない方が良いとされていますが、別に逆でも出来ない訳では無いです。

ナイトビジョンの見た目
サーマルイメージャーの見た目

そして、ナイトビジョンの方に意識を6〜7割向けて、サーマルイメージャーの方の意識を3〜4割にします。
そうやってナイトビジョンの像の上にサーマルイメージャーの像がぼんやり重なるような状態を作り出します。

説明の為に静止画の合成で行っていますが、これを頭の中で行うのが脳内フュージョンです。

見ての通り、視野角が異なる映像を脳内で合成させる訳ですから、かなり無茶苦茶な事だという事が分かると思います。
右目と左目で異なる倍率を見てる状態に近いですからね。

脳内フュージョンの結論

脳内フュージョンは人間の脳の構造上、無理だそうです。
右目と左目の像の合成は日常的に行っている為それ自体はおかしい事では無いのですが、異なる像を合成させるというのは普通ではあり得ない事です。

多少の像のズレは脳内で補正されて多少の違和感はあれどそれなりにしっかり認識してくれます。
そもそも人は右目と左目は常に異なる像を見て、それを脳内で合体させる事で距離感を掴んだりする事が出来るのですが、明らかに違う物を見てしまうと「別々の像を見ている」という事になり、頭の中でそれを合成させる事は出来ません。

仮に全く同じ方向を見ていたとしてもナイトビジョンとサーマルイメージャーではそもそも視野角が異なっているので、実質像の大きさが違っています。

その為、それを合成させるにはサーマルイメージャー側の見た目を頭の中で縮小して、ナイトビジョンの像に重ね合わせる必要があるのですが、そんな処理は人間の脳には備わっていません。

RH25 Pfalcon+の視野角は横17.5°、縦横14°なのに対し、PVS14の純正レンズの視野角は40°あります。
これが近ければ近いほど脳内フュージョンはやりやすくなりますが、自分が知る限り視野角が40°もあるサーマルイメージャーは無いです。

ナイトビジョンに取り付ける、ちゃんとしたクリップオンサーマルですら多少のズレはありますし、そもそも視界全体をカバーするのではなく視界の一部分だけにサーマルの映像が重なるという見え方になります。

COTIを付けたナイトビジョンで見た様子、アウトラインモード
赤丸の内側がCOTIの表示範囲

という訳で、脳内フュージョンについて紹介してみました。

基本的にはナイトビジョンとサーマルイメージャーの両方を手に入れた人が一度は試そうと思うネタで、結局ネタ止まりの話しでした。
自分の周りで脳内フュージョンを試した人も何人か居ますが同じ結論に至っています。

ネタではなく実際に脳内フュージョンで行動を行ってる人、居るんでしょうか…。
先述もしましたが、視野角さえ合っていれば脳内フュージョンは不可能とまでは行かないと思いますが、相当目と頭が疲れると思います…。

逆に言えばナイトビジョンとサーマルイメージャーのFOVを揃える事が出来ればもしかしたら脳内フュージョンも不可能では無いのかも知れないですね。
今度はリフレッシュレートのズレが気持ち悪く感じるようになりそうですが…。

まあ、普通にサーマルイメージャーとナイトビジョンを併用したいなら、素直に既存のナイトビジョンにCOTIを取り付けるか、標準でサーマルイメージャーとナイトビジョンが合体しているようなナイトビジョンを使うべきでしょう。